『ア・プリオリ』
この音には抗えない。
🩸 幕開けは苛立ち
あれだけ言ったのにバカね
大森の言葉が、刃のように鋭く放たれる。
弦楽器はそれに応えるように、空間を切り裂きながら響き渡る。
すかさず管楽器が加わり、この物語の音が広がる。

まってぷち、広がるの早すぎるぷち~~~!!
大森は、まるで指揮をとるかのような身振りで音を手中に取り込んでいく。
そこに込められたのは「聴いて、感じて」という静かな強さ。
弦楽器は徐々に迫りくる緊張感を孕んでいる。
空気は静寂と不穏のはざまでじりじりと近寄ってくる。
🩸 皮肉な羨望
ねえ、君はなんでそんな
大森は、語りかけるように歌う。
藤澤は優しく、シンプル。
強弱をつけながら、和音でその歌を支える。
言葉の棘を秘めながらステージから問いかけが迫ってくる。
🩸 彼の手の中
あれだけ言ったのにバカね
この瞬間から動き出す。
ドラムはバスドラムだけで、小節を区切るように力強く踏み込む。
音の隙間を埋めるように、弦楽器が細かく、そして鋭く切りつける。
間奏では、スネアドラムと弦楽器が、ユニゾンで響き合う。
音がひとつにまとまり、観る者の意識をぎゅっと引き寄せる。
ステージ上で回りながら拍手をする大森。
だがそれは、歓声に応える拍手でも、演者としての誇りでもない。
まるで「ようやく物語の本編が始まる」とでも言いたげな、皮肉めいた合図にも見える。

ちゃうねん、あれ 拍手 でも合図でもない!
魔法 や……!!
その仕草が、この曲に漂う空気すべてを象徴しているようだ。
観客はすでに演出家・大森元貴の手のひらの上にいる。
🩸 音を従えて
味を占めたのかしら
ドラムもベースも、リズムを刻んでいるのではなく、奏でている。
一音一音、歌に絡みつきながら慎重に丁寧に音を置く。

おとが……ぷちの心臓にしのびこんでくるぷち……
君が言うその考えは
歌のテンションよりも控え目に、ベースが一定のリズムを刻む。
やがてドラムフィルが入ると、空気が一転。
歌は一気に力強さを帯び、曲全体がこの気迫に同調するように湧き上がる。
🩸 感情を操るドラム
間奏。
あーあー
バスドラムに注目。
まるで地面を踏みしめるような重みのあるリズムでありながら、16分音符をぶつけてくる。
このタイミングでそのリズムを使うとは。
このセンス、やはり尋常じゃない。
🩸 抗えないまま
悪い人ではなく弱い人
歌は跳ねたリズムを奏でているがドラムのリズムは大きくシンプルにまとめている。
にもかかわらず、まるで跳ねたリズムを感じて踊らされてしまう。
前奏で刻まれたあの感覚が、まだ身体に残っているのだろう。
それはもはや、音による錯覚。
知らぬ間に曲の世界へと取り込まれてしまっている。
虚しさの中で溺れる世は
バスドラムの音符が増えていく。
それと同時に、ベースは解き放たれたかのようにアプローチを変える
🩸 呑まれる
あれだけ言ったのにまた、ね
リズムは、皮肉を帯びた黒い熱をまとって膨らんでいく。
リズムの音はさらに増し、ドラムフィルがねじ込まれる。
その直後、一瞬のブレイクに心を奪われる。
逃げ場のない濁流の中で一瞬見えた安全地帯へ引き寄せられるように。
まんまと、心臓をわし掴みにされてしまった感覚だ。

なんも安全ちゃうかったもん!!
ろろんまんまと飛び込んでしもたもん!!
🩸 物語の結末
あれだけ言ったのにバカね
ここにきてさらに歌に迫力が増す。
もはや、それは罵倒するように叩きつける音。
若井はステージの上で、曲と同化するように舞う。
この感情を撒き散らすようだ。
エンディングでは演奏も、感情も、制御不能なほどに高まっていく。
バスドラムは、ツーバスの奏法が炸裂。
藤澤も、若井も、頭を激しく上下に振る。
楽器全体が最高潮のテンションに達する。
その中で、ドラムのフィルが最後の一撃を放つと、音は鎮まっていく。
残るのは、若井のギター。
大森は大きく拍手している。
それは、最高のエール。
ステージが届けた物語の真髄を、見事に伝えきった至福の瞬間のようだ。
🩸 ア・プリオリ
この曲が終わって、ぞっとした。
この曲に引きずりこまれている自分が居る。
これは、感情の奥底をかき乱し、否応なくこちらの心に足を踏み入れてくる「音の詰め寄り」。
そこにあったのは、優しさではなく本音である。
それを拒絶しきれないのは、私たちもまた、その「黒い熱」の中に身を置いているからかもしれない。
期待しては裏切られ、信じては傷ついて、それでもどこかで諦めきれずにいる、そんな思い込みが、あまりにもリアルに音に宿っていた。
きっとそれは私たち自身がずっと気づかないふりをしてきた「ア・プリオリ」だ。

ぷち…この曲……なんか…
ぷちのなかの“つめたいとこ”をさわられた気がしたぷち…。
つよい…でも…さびしい…でも…うつくしかったぷち。
聴き手を決して離さない「魔の魅力」が放たれたステージだった。
なにより衝撃だったのは、「諦めそうだ」という言葉が、まるで「お前、諦めろよ」と命じるような視線として飛んできたことだ。 そのとき感情の矛先は、すでに言葉ではなく、こちらを射抜く眼差しだった。

……あのな。
ろろん、ここまで感情ふりまわされたん、ひさしぶりや。
元貴まる、ほんま……音で、魂さらう魔法使うんやな…。
すご……。
これが、大森元貴という表現者、音に魔術を宿す者である。
ミセスはその魔術を正しく理解し、音楽としてこの世に放つことのできる唯一の「使い手」。
そしてそれを成立させるのは、ステージを共に創り上げるすべての者たちの手がける魔法だ。
とりわけ、定期公演と銘打って開催された「Harmony」は、まさに魔法使いたちの戯れのような空気を纏っていた。

元貴まるの魔法は妖精の常識ぷち!
A magical record drawn from a captured moment.
『ア・プリオリ』 ― Harmony2024
Mrs. GREEN APPLE
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