Coffee cupの奥にひそむグルーヴ
☕ 日常のはじまり
テーブルを囲む二人が、カップ片手に他愛ない会話をしている。
あたらしいの買っとけばよかったね 牛乳
そんな言葉のあとに、大森がcoffeeをひとくち。
その自然な日常を、まるで音で描くように、会話のすき間から藤澤のフルートが響き渡る。
音が空気に溶けるように、やさしいイントロが部屋を包んでいく。

コーヒーの香りって、ふたりの時間そのままなんやなって思ったもん。
なんとなくそんな気がするんやもん。

この感じ……なんかわかるぷち。
☕ 揺れるメロディと、3拍子
僕らをつないでいるのは何?
Aメロが始まる。
大森の歌声と鍵盤が、まるでそっと寄り添うように流れ出す。
メロディはとても美しく、そこに重なる藤澤のフルートが、さらに深みを与えていく。
鍵盤は、音のパンニングによって左右に揺れている。
ヘッドホンで聴くと、その揺らぎはより鮮明に感じられる。
空間にやさしく広がる波のような心地良い時間を与えてくれる。
大森の歌は、常に3拍子を意識している。
特に1拍目には、ほんのすこしアクセントが置かれている。
それがリズムに自然な弾みと安定感をもたらし、2拍目・3拍目の余白は、感情や情景が自由に踊る空間。
音と空間という創られた舞台で、安定したリズムの上に自由に情景を描いていく。
妥協のない演奏だからこそ、この舞台が成り立っている。
☕ 音の対話
君を好きだと言うには
Bメロで、若井のギターが加わる。
やわらかく繊細なタッチのつま弾く音色は、指で弾かれているのだろう。
そこに、ストリングスが音の隙間を縫うように自然に溶け込んでいく。
音の差し引きがとても巧みで、どのパートも「歌が伝えたいこと」を正しく理解している。
ギターとストリングスが会話をするように、音が少しずつ気持ちに寄り添っていく。

若井まるが、声出さずにしゃべってた……
君を好きだと言うなら
大森は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
僕の幸せを願っているんだ
自身の胸に手をあて言葉を強調する。
演奏も空間も演者の仕草も、音楽の一部だ。
一瞬のノリや熱さというライブとは違う、作られた繊細な舞台。
ミセスの魅せる音、まさに音楽劇としての形が届いている。
☕ 重なり合う音
間奏に入る合図のように、ドラムのフィルが抜群の位置で入る。
タイミングは完璧。
3連系のフィルだが、スネアドラムのスナッピーをしっかりと響かせながら、タム、そしてフロアタムへと流れていく。
音の強弱は自然で、気持ちのいいフィルから次の空気を準備しているようなリズムに移る。
いろいろな音が重なり、物語の一部として呼吸を始める。
藤澤のフルートがテーマメロディを描きはじめると、歌からバトンを受け取ったトランペットがメロディを奏でる。
旋律は複雑だが、実にかっこいい。
ベースが隠れつつも、低音の基盤として全体を支えている。
空間を泳ぐような心地よい音量のバランスと、重なり奏でられる音に魅了される。
大森はその中で、ただ静かに、たたずんでいる。
あらゆる音が景色を語り、舞台を動かしていく。
☕ 感情のグラデーション
繋がりたくなるのは何故?
大森の歌声が少し変化する。
言葉を立たせるように、輪郭がはっきりとし、感情のゆらぎのように音に強弱があらわれはじめる。
ここからのドラムは、スネアのリムショットを中心にリズムを描いていく。
リムショットは、ほんの少しヒットポイントがズレただけで音が変わってしまう、難易度の高い奏法。
その繊細な響きが、独特の立体感をもたらしている。
若井はコードを中心に、やわらかなタッチでギターを鳴らす。
ベースはウッドベースだろうか。
弦の鳴る響きが心地よく空間に広がっている。
ステージでは、大森が2階に立っている。
1階では男女のペアが歌に合わせて踊っている。

心の距離って難しいよな。
みえへんし…。
音、ちょっとさみしそうに聴こえたもん。
遠いんかな…。
わからなくてもいいや
そのフレーズの直後、ドラムのフィルが静かに入り、ストリングスとホーンセクションが徐々に広がり次の展開へ繋いでいく。
☕ 歌うドラム、語るベース
君を好きだと言うのは
B2はB1よりも感情が強く表れ、歌の音量が上がり、各楽器も追従する。
ドラムはスネアのタッチを変化させ、歌に見事に寄り添っていく。
そのタイミングは、ぴったり一致させるのではなく、ほんのわずかに遅らせたり早めたりすることで、グルーヴに生きたゆらぎを与える。
そのスネアの一打は、ただの「タン」ではなく、奏者が心の中で「ターン」とイメージしてるような音。
本来、無機質な打楽器が、奏者のイメージによって濁りや柔らかさを帯びる。
それはまさに、歌うドラム。
音のタッチやヒットポイントを変えて演奏する技術も伴っての妙技である。
もちろんベースの音とも同調しないとこの変化は生まれない。
このふたつが響き合ってはじめて、音楽はリズムを超えて「言葉以上のこと」を伝えてくる。
歌に寄り添い、空間に作用する、目に見えるものだけでは表現できない音楽劇の芯がここにある。
この間に大森が階段から1階で踊る二人を見つめながら、駆け降りるように降りてくる。
音と言葉と動きがひとつになって、感情が風景に変わる瞬間の連続だ。
☕ 響きあうソロたち
スネアのロールが静かに入り、藤澤のピアノが自由にきらめき始める。
音が跳ねたり、きらきらしたり、美しい音が舞う藤澤の時間。
トランペットもいいタイミングで絡み合う、ソロ。
若井はギターの弦を指ではじいてやわらかい音を入れてくる。 派
手ではないが、裏のリズムを正確にとらえていて、空間の見えない糸を操るように音を響かせる。 それぞれのソロが主役になりつつも、誰も出しゃばらない。
互いに気配を感じ合いながら、同じ空間の中で漂うような美しい調和を語るソロの時間だ。
☕ Coffee cupと3拍子
好きだというには 君を知らなすぎるから
大森の歌とストリングス。
大森が歌うその手には、踊っていた男女から手渡されたcoffee cupがある。
僕を好きだと言うなら 僕の 「僕」を愛して
カップを持ったまま、大森はステージ左側へと歩き、静かに立ち止まる。
このシーンでは、ドラムは入っていない。
にもかかわらず、歌だけだがドラムのリズムにのってメロディを奏でているように、大森の歌は確かに3拍子のリズムを捉えている。
ピアノやストリングス、ベースがそのリズムをやさしく支えているが、何より、大森自身のリズムが揺るぎなく存在している。
芯を失うと音は崩れる。
大森の一挙手一投足がすべての音の芯となり、この音の、いや、この舞台の指揮者として存在しているのだ。

いま、元貴まるが空間そのものになってたぷち……
藤澤のピアノが、ナイスタイミングでふわりと重なり、ベースも、まるで「その瞬間を知っていたかのように」音を添える。
☕ coffee cupと歌
あらゆる動きが音の意味を成しているのだ。
一音で伝える愛 ドラムのフィルが入る。
僕はさ 誰より君に寄り添っていたいな~君を好きだと言うのは
ここからリズムの印象が変わる。
スネアドラムを少し強めにヒットしてスナッピー(ジャリ音)の音の強調を少なくし、ヘッドの音を少し強めに出すことでシャープな音に仕上げている。
これは、他の楽器とのバランスをとるための変化。
その音に、ベースが重なる。
ふたつの楽器が絡み合うように、自然と身体が揺れるグルーヴ。
空間が呼吸するような心地よい響きだ。
☕ 空間と音
舞台の1階、2階では、男女二組がそれぞれの物語を踊り始める。
日常を描いたような光景。
大森は、片手にcoffee cupを持ったまま、その様子を静かに見つめている。
僕の一部って意味で
ゆっくりとステージ中央へと歩き出す。
少しずつでいいから
ドラムのフィルが歌に絡むようにリズムを添え、スネアの音でフィルの最後を締める。
じつに素晴らしいドラミングを聴かせてくれる。
愛という 恋とまた違う 種を育んでゆこう
若井のギターが、一瞬だけ差し込まれる。
聴き逃しそうなほど、目立たず、でも確かに。
大森はステージ右側(上手)のバーカウンターへ。
グルーヴが伝える、最後のひと音
大森は、カップのcoffeeを飲み干す。
なにかを思い出したかのような、静かな仕草で。
☕ 愛と苦み
cupをそっと置く。
その瞬間、音が引き継がれる。
トランペットから、引き継がれた藤澤のピアノで、この章の幕が下りる。
この最後の藤澤のピアノがすごく気に入っている。
曲中、同じフレーズのように聴こえる場面もあるかもしれないが、そこにある表情はすべて違う。
ストリングスや管楽器、そしてドラムやベース。
生演奏でしか生まれないグルーヴがある。
一音一音が研ぎ澄まされた状態で放たれ、その緊張感までもが、聴く人の体温に触れてくる。
そして、何より驚かされるのは大森元貴のリズム感の鋭さだ。
奇数の拍を軸にした楽曲で、歌だけで正確なリズムを取るのは容易ではない。
ガイドとなるはずのドラムがない場面でも、まるでドラマーと同化するように、リズムを刻み続ける。
それは、音楽の中心に立つということ。
その確かさが、Coffeeという楽曲に注がれた愛と苦みをグルーヴに変えていたのだ。

音って、生きてるんやなぁ。
ふれてないのに、ここに届く。

それ、まほうぷちっ☕
A magical record drawn from a captured moment.
『Coffee』 ― The White Lounge in CINEMA
Mrs. GREEN APPLE
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